中国の都市部を中心に「手作りパン」が空前のブームとなっています。
『每日人物社』の報道によると、若者の間では「月給2万元(約40万円)でも30~40元(約600~800円、1元=20円)のトーストは気軽に買えない」といった声が上がる一方で、こうした高価格の手作りパンが“争奪戦”になるほどの人気を博しているようです。
北京市内では見た目が洗練された新興ブランドのパン店が続々登場。北欧風カフェのような内装でSNS映えを狙い、行列ができることも珍しくないようです。
パンの価格もインパクトがあり、「手作りのエルメス」と称される食パンは1斤140元(約2800円)、ドイツ風のパンは1個40~50元(約800~1000円)といった高価格帯が目立ちます。
中には、人気店のパンを入手するためにネット予約して受け取りまで半年待ちという例もあるようです。
スーパーもこの流行を受けて、独自の高品質パンを開発しています。たとえば「盒馬」では、ベルギー産の種を使った48時間発酵の欧風パンを一枚16.9元(約340円)で販売。健康志向と高級感を両立させた商品が支持を集めています。
市場調査によると、2024年の中国のベーカリー市場規模は6110億元(約12兆2200億円)に達する見込みで、今後も拡大が予想されています。10年前は欧米風の西洋菓子店が主流だった中国のベーカリー業界ですが、現在は新中式や独立系手作りパン店がSNSと結びつき、新たなブームを作り出しています。
都市部では、食品に対する消費行動が「機能性」から「体験価値」へとシフトしているようです。手作りパンを買うという行為が、単なる食料調達ではなく、自分を労わる時間、あるいは特別感を得る体験になりつつあります。
また、こうした流行の背景には、SNSの影響も大きく関係していると考えられます。パンのビジュアルやストーリー性が、写真や動画で拡散されることで、実際に味わう前から「美味しそう」「おしゃれ」と感じさせる効果があり、購買意欲をかき立てているようです。いわば“視覚的満足”も大きな要素になっているのです。
日本でも近年は高級食パンブームがありましたが、中国では何としてでも手に入れたいというコレクション的な情熱が加わっています。
これは、物質的な豊かさを超えて「自分だけの特別な価値」を見出す消費スタイルが広がっていることを示しているのかもしれません。今後、日本でもこのような“推しパン文化”が拡がる可能性もありそうです。